■御託と能書き その2「いつも最後さ」


「いつでも最後なんだから」
そんな言葉を聞いた。確かにそれはひとつの真理だと思った。大学四年、区切りの年を迎えた僕が何かにつけて最後を意識しているのを彼女も知っていたのだろう。この調査で大滝沢に来るのは最後、今日で水路実験は最後、サクラマスの産卵確認はこの調査が最後、数え上げればきりがないくらいに、僕の周りには終わりが満ちていた。始まりがいつだったかは覚えていないけれど、この終わりを僕は想像し得ただろうか? 答えは否だ。終わりが見えないのなら、終わりが来るときまでそれを考えずに生きてきたはずだ。最後という言葉の響きを恐れて動けなくなってしまうのなら、終わりの瞬間までそのことを考えずに楽しんでいたいと、そう信じて暮らしてきた。
そう、僕は何度も繰り返し自分に言い聞かせてきた。楽しいと思い込むんだ。たとえ少しくらい辛くてもいい。楽しいと思って笑ってさえいれば、せめて僕の周りのひとは幸せでいられるかも知れない。そうやって最後の最後まで終わりから目をそらして生きるんだ。楽しむんだ。それは既に強迫観念のような強さで僕の耳の奥に染み付いた言葉だった。せめてもの救いだったのは、僕の暮らしはおおむね順調で、心がけなくても楽しかったということだ。
それでも、考えないようにしていた終わりはやって来る。必然という名の残酷さで、僕の生きる小さな世界は幕を下ろそうとしている。そんなふうに終わりに囲まれた僕は、足がすくんで動けないでいる。足元のぐずついた雪は夜の寒さでいつか凍り始めていた。
05.12.27.Tue

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