■Our love and peace


「俺? 俺はいいや、帰ってからやることあるしさ」
なんて言ってみたところで、俺に家でやることが生まれる訳じゃない。飲み会の誘いをいつものように断ったのは、ひとえに面倒臭いからだった。

カンパーイから始まって、ぎゃあぎゃあ騒ぎながらつまみや料理を食い散らかして、おまけにいきなり人の隣に座って「よぉ、飲んでるか?」なんてお決まりの定型分で話しかけてくる。お前の名前なんだったっけ、なんて思い出す間もない。別にそんな情報は必要ないんだ。現に彼は俺の名前だって口にしない。ただひとりで座っている奴に対する何とはなしの義務感が声をかけさせるのだろう。ひと通り、あの子がかわいいとかあっちの子は今日やたらに化粧が濃いだとかをまくしたてたあげく、じゃあな、と肩を叩いて彼は別の奴のところへ移った。ちょっと耳を澄ませば分かるけれど、そいつのところでも同じ話題だ。どうやら彼はよっぽど自分の好みを俺たちひとりで飲んでいる者に熟知させたいらしい。あいにくというか幸いというか、俺の次に声をかけられた奴は俺みたいに愛想笑いじゃなく、心底楽しそうに笑っているみたいだった。正直羨ましいと思った。別に変な含みはなくて、付き合いでたまに顔を出す程度の俺からすれば、こういう場でこういう楽しみ方ができるのはいいなぁと素直に思っただけだ。

「飲み会」ってのはどうも好きになれない。別に仲も良くない連中が大勢で集まって酒を飲む、という神経が理解できない。酒は楽しく飲むもんだろう? なんで金を払ってまで不愉快な思いをしなきゃならねぇんだ。第一酒の力を借りなきゃ仲良くなれないのなら、別に無理して付き合う必要だってないだろう。そんなことを昔「飲み会」で女の子に愚痴ったら、
「それがきっかけで仲良くなれる人だっているのよ」
なんて一般論のお説教が始まった。なんで金を払ってまで不愉快な思いをしなきゃならねぇんだ。やれやれ。
元々俺は酒に強くないから、飲むんなら気心の知れた奴らと3人くらいでだらだらと飲むのが好きなんだ。好きな酒をひとりひとりが部屋に持ち込んで、コタツに入って、時たまビスケットをつまんで、色気のない話をして。

俺は学校を出た後、近くにある量販店で安い芋焼酎とサイダーを買った。断ったとはいえ、皆が賑やかに飲んでいる同じ時間に俺だけ引きこもっているのも何だか淋しい。独りで酔いだけでも味わうことにしようと思った。
アパートに着き、ドアを開けようとポケットを探る。意識すらしないいつもの繰り返しだ。と、メモ帳が一枚ドアに貼ってあるのに気付いた。

in 202 18:00〜 鍋やるよ キク

はい、りょーかい。俺は少し嬉しくなってジャケットを脱ぎ、冷蔵庫を開けた。使えそうなのは長ネギと鶏肉か。豆腐はキクが、白菜はトシが持ってくるだろう。土鍋はトシの部屋にある。
足りないものなんてない。お金も騒げるスペースも人数もいらない。俺にはこういう小さな空間がお似合いだ。


050207

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