冬の電車通り


 僕は冬の電車通りを歩いていた。
 深夜3時、短い間隔で並んだ電灯が二車線の道路を浮かび上がらせている。人通りはなく、のぞいたコンビニでは店員が暇そうに雑誌の品出しをしていた。僕は音のない道をひと足ずつ踏みしめながら、通い慣れた学校へと足を向けた。

 僕が通う高校は家から徒歩5分のところにある。中学まで地下鉄とバスで通学していた僕にとって、高校へ通う道のりはとても味気ないものに思えた。生徒の多くが地下鉄を利用して通学しているせいで、校門を出てみんなが向かうのは僕の家とは逆方向にある駅だ。友人と連れ立って「街」と呼ばれる繁華街へ遊びに行くにも、定期券を持たない身では辛い。往復400円、市電を使っても340円。軽くマックで腹ごしらえができる金額だ。ひとりで自転車で行くのもつまらない。ましてや冬は車庫が埋まって自転車に乗れない。
 結局、誰かと一緒に行くでもなし、一緒に帰るでもなし。僕の帰り道はいつもひとりだった。だから、歌を歌ったり金星を見上げたり、雪球を握って電柱にぶつけたりしながら僕は家に帰った。寂しいなんて感じる暇もなかった。

 夜のグラウンドはとても白くて、とても静かだった。靴の中に柔らかな雪が入るのも気にしないで、僕はグラウンドの中央までもそもそと歩き、ばたりと背中から倒れこんだ。真上の夜空では巨人が逃げ始めて、僕の好きなライオンが昇ってきていた。冬の空気の中、空は僕の喉を絞めるように近くに思えて、必死に息をしながら僕は明るくなるのを待った。
 お尻と背中の感覚がなくなった頃にようやく東の空が白んできて、あぁやっと日の出か、と呟いたとたんに世界は暗くなった。


050129

Back to 'Imaginary Story'

Back to Text

Back to Home