■そんな宛名のない手紙


こんにちは。
桜が散ってもう随分になる気がしています。それでも道を歩くと雨で落ちた八重桜がコンクリートにへばりついていて、一見みすぼらしいようでも何故かすごくきれいなように見えるんです。
僕の風邪はだいたい直りました。薬を飲むのにいつから抵抗がなくなってしまったんでしょう。昔は薬なんか飲まない、寝て汗かいて直すなんて言っていたスポーツ刈りの少年はいつの間にか手の届かない遠いところへ行ってしまったみたいです。もう会えない。そう実感しました。
さて、僕がこの手紙を書いている北向きの部屋には5月の日暮れ時の風が流れ込んできています。とてもいい気持ち。そう言えば風の音に木々の葉が揺れる音が混ざるようになっています。花だけの姿から青嵐を起こす成長が見えて嬉しくなりました。空は藍色に届かない薄い紺色に染まっています。思わず窓から身を乗り出して西を見ると、強い残光が目に入りました。誰があんないろを作っているんでしょうね。そんな力があるのなら僕に分けてくれないかなぁなんて本気で考えてしまいます。
全てを飲み込んでしまいそうな夕暮れです。

どこからともなく鈴の音が聞こえてきました。すぐそこに立っている木の影は空との境を必死に守っているように見えます。少し寒くなってきたから窓を閉めなくちゃ。
また手紙を書きます。それではまた。


040505

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